花谷 タケシ『フォトレックジャケットVII』フィールドインプレッション
2021.10.15 Update
こんにちは。極北カナダ・ユーコン準州在住の野生動物写真家 花谷 タケシです。今回はフォックスファイヤーのフォトギア定番商品であるフォトレックジャケットの最新モデル「フォトレックジャケット VII(7代目)」のフィールドインプレッションをお届けします。2021年4月より最終サンプル品を試用する機会を頂きましたので、晩冬~秋にかけての使用感になります。以前、M V(5代目)のインプレッションも書かせて頂きましたので、新旧モデルの比較も交えながらお伝えしていきたいと思います。
まず手に取って感じるのは『軽くなった』こと。それもそのはず、M Vまでは中綿入りでしたが、前モデルのM VI(6代目)からは中綿がなくなりました。ユニットシステムに対応していますし、昨今の温暖化を考えれば理解できる変更点といえます。中綿がないと秋の着始めから春の着終わりまでの着用可能期間が長くなりますし、最も寒い時期でもユニットシステムで厚手ダウンジャケットをライナーとして装着すれば十分対応できるでしょう。
M VIからの変更点としては、腰回り内側にあった風や雪の巻き込み防止用のパウダーガードが省略されました。よほど過酷な撮影環境でなければ必要としないはずですし、いずれにせよユニットシステムでインナージャケットを装着した状態では機能しなかったので、シンプルかつ軽くなってこれはこれで良いのかなと思います。
着てみるとシルエットがスリムになったと感じます。M Vは中綿入りに加えユニットシステムで厚手のジャケットを連結することも考慮してか、かなりゆとりのある寸胴デザインでした。対して中綿をなくしたM VI以降はスリムになりフィット感が増しました。両脇(腰横)にはさらに腰回りを絞り込めるようにスナップで止めるタブが付いていますので、これならパウダーガードも必要ないでしょう。私は単体着用時にはこのタブで絞って着用することでフィット感を上げ、ユニットシステムでインナー装着時はこれを外してタイトになり過ぎないように調節しています。
左: 単体での着用。しなやかになった生地とスリムなデザインでフィット感も良く動き易い。重厚だった旧モデルと比べて普段使いもし易くなった。
右: ユニットシステムで厚手ダウンジャケットを装着。相変わらず真冬のアウトドアでも安定の信頼感。
動いてみて生地がしなやかになった気がしたのですが、開発担当者によるとそこはこだわった部分だそうで、実は繊維は70デニールから80デニールへ上げて強度を増しつつも、しなやかな生地を採用して着心地を良くしたそうです。M Vはゴワゴワした感じの生地だったので、動き易さは格段に向上しました。こういう地味な改良でより良い製品を作ろうとする姿勢に感心しきりです。そしてフォトレックジャケットとしてはもはや当然の透湿防水素材『ゴアテックスファブリクス』を採用。雨や雪で体を濡らすことなく、汗をかいた時の蒸気は外へ排出して蒸れず、風を遮ってくれるという、全天候に対応出来る仕様です。
取り外しできるフードはフォトレックジャケットの定番仕様であるガーター(雨どい)付き。通常のフードでは雨中でファインダーを覗いた時、カメラの軍幹部に雨水がしたたり落ちてしまいますが、ガーターがあると雨水を脇へ逃してくれます。実際に雨の中で撮影をすればその恩恵を実感できるはずです。雪の季節にはフードは必要ないので外せるのも気に入っています。
次に、フォトレックジャケット最大の特徴である大型レンズポケットを見てみましょう。私は野生動物を撮るので100-400mmクラスのズームレンズが自分にとっての標準ズームレンズなのですが、これをボディに装着した状態でも余裕で入るほどの大きさです。さすがに重いですから入れっぱなしで長距離歩き回れませんが、ちょっとカメラバッグを置いてウロウロしたい時などに重宝します。A4サイズ位までの書類や雑誌、私の13インチノートパソコン(参考: Dell XPS 13)も入ってしまいます。屋外でとりあえず一時的に両手を使いたい時など、これだけ大きいポケットがあると大抵何でも入ってしまうのでとても助かります。
大型レンズポケット使用例 参考機材: 富士フイルム X-T3 + XF 100-400mm F4.5-5.6 R WR OIS (フード順付け=撮影状態で収納可能)
他にも前面に4つのフラップ付きポケット、ハンドウォーマーポケット、大型ポケット内の小物用ポケット、そしてジッパー付き内ポケットなど、驚異的な収納力を誇ります。普段使いなら、工夫次第で身の回り品を全てポケットに収納し、バッグ無しで出掛けることも出来るでしょう。デザインも以前に比べ洗練されましたので、アウトドアフィールドだけではなく、街中でスナップを撮りたいストリートフォトグラファーにも使い易いのではないかと思います。
最後にこのジャケットの使い道を広げる『ユニットシステム』についてです。ユニットシステム対応のインナージャケットを連結出来るので、気温や用途によって様々な組み合わせで使い分けることが出来ます。同社では長年この規格を使い続けているので、旧製品でも問題なく装着できるのが嬉しいところです。慣れてくると脱着も簡単に出来るようになるので、出先で動き回って熱くなったり汗冷えで寒くなったりしても現場で素早く最適な状態に変えられます。この機能があるおかげで多シーズン多用途に使えるので、このジャケットの可能性を何倍にも広げていると言えるでしょう。動画に着脱の様子も収めていますので参考にして下さい。
ユニットシステム組み合わせ例
左上: フォトレックジャケット単体 / 右上: +パワーフィルハイブリッドジャケット(薄手化繊綿)
左下: +ファジーライトフリースジャケット(旧製品) / 右下: +パウダーライトダウンジャケット
まだまだ残雪残る4月初旬、スノーシューで森に入る。パワーフィルハイブリッドジャケットを装着して出発。途中で熱くなりフォトレックジャケットを外しインナージャケットのみで行動。歩みを止め撮影に専念する際は汗冷えが始まるのでフォトレックジャケットを再着用。
ユニットシステムの脱着は、慣れればフィールドでもあっという間に出来る。現場で最適化出来るユニットシステムの利点を最大活用。
晩夏(8/31~9/2)の撮影行、日中の気温は16度だったので単体で着用していたが、夜は4度まで冷え込んだ。オーロラが出そうだったのでパワーフィルハイブリッドジャケットを装着して撮影に挑んだ。
M V以前のモデルはどちらかというとアウトドアフィールド向けといった重厚なイメージでしたが、M VI以降はデザインも洗練され、もっと普段から街中でも着られる雰囲気になりました。この収納力があれば旅行でも威力を発揮してくれそうです。冒頭でも述べたように、中綿を抜いたことで着用できる期間が長くなったので、夏以外のほとんどの季節で活躍してくれることでしょう。ジャケットなので衣類ではありますが、私にとってはその収納力ゆえにM Vのインプレッション時にも述べましたが『着るカメラバッグ』のようなもので、撮影機材の一部という認識です。長い年月をかけて細かな改良を積み重ね、完成の域に達したフォトレックジャケット、皆様の撮影もより快適にしてくれるに違いありません。
あらゆる表情を見せる自然とも、信頼できる装備があってはじめて対峙できる。
■花谷氏による『フォトレックジャケットVII』フィールド動画
写真家
花谷 タケシ | Takeshi Hanatani
1970年、京都市生まれ。独学で写真を学び、1998年よりカナダやアラスカにて野生動物の撮影を開始。2007年カナダへ移住、2010年よりユーコン準州在住。ユーコン川畔に住み、近くに世界遺産クルアーニー国立公園、冬空にはオーロラが舞う環境にて、極北の厳しい自然環境の中であるがままに生きる野生動物の姿を追い続けている。元Foxfire Storeスタッフ。
<WEBサイト> 熊魂 yukon-bearspirit