写真家・花谷 タケシ『フォトレックジャケットM V』フィールドインプレッション

2019.02.05 Update

 こんにちは。フォックスファイヤー・フィールドスタッフで極北カナダ・ユーコン準州在住の野生動物写真家、花谷タケシです。今回は、昨冬から導入した「フォトレックジャケットM V」のフィールドインプレッションをお届けさせて頂きます。

 

 そもそも私にとってのフォトレックジャケット導入は、「満を持して」という表現がピッタリかもしれません。フォックスファイヤーのフィールドスタッフに加えて頂いたのが2011年。ストアスタッフとして働かせて頂いていたのが2005年頃。それ以前から、こだわりの写真用品を製造販売するブランドとしてフォックスファイヤーには常に注目していました。その中でも常に「憧れの製品」として心にあり続けたのが今回ご紹介するフォトレックジャケットです。

 

長年の憧れだったフォトレックジャケット

 

 このジャケットは何度も導入を検討しましたが、憧れであったにも関わらず現在まで見送ってきたのは私の「撮影スタイル」が原因だったと思っています。

 

 フォトレックジャケットは当然「写真撮影に特化した作り」となっていますが、中でも「定置観測的な撮影」に向く作りだと思います。対して私の撮影は「原野行に撮影が付随する」感じでしたので、選ぶジャケットといえばもっと登山向けのようなアクティブなデザイン・機能のジャケットが主でした。春から秋にかけて最も愛用するジャケットは旧製品のビューマスタージャケットII、そして真冬用にはオーロラジャケットもあります。そこにフォトレックジャケットを加えることにしたのは、私自身の撮影スタイルの変化が大きく影響しています。

 

 こちらユーコンでの生活が長くなるにつれ、それまでの「原野行+撮影」というスタイルよりも、「生活(日常)の中の撮影」というスタイルにシフトしていきました。つまりこの地に根を下ろしたことで、身の回りにある自然の中での撮影の割合が増えていったのです。そうなってくるとアクティブな動きを重視したビューマスタージャケットよりも、撮影向けにより機能的なフォトレックジャケットの方が向くのではないかと思い至ったのです。

 

フォトレックジャケットMV(中央)とビューマスタージャケットII(右)、オーロラジャケット-2011年頃のモデル(左)

 

前置きが長くなりました。それでは愛用のビューマスタージャケットとの比較を軸に、フォトレックジャケットの詳細を解説していきます。

 

 

 季節や天候に合わせて調整できるカスタマイズ性

 

 ゴアテックス3レイヤー、つまり一枚地であるビューマスタージャケットの場合、寒い時には中にフリースジャケットや薄手ダウンジャケットを重ね着していました。しかし単体での着用を前提にサイズも選んでいたので、中に着込むとパツンパツンに着膨れしてしまっていました。これに対しフォトレックジャケットはゴアテックス2レイヤー+裏地+中綿入りということで、単体ですでに若干の保温力があります。更にインナージャケットを連結できるユニットシステム対応なので、組み合わせも自由自在。夏の短いユーコンでは組み合わせかた次第で一年のほとんどで活用することが出来ます。

 

ユニットシステム例

 

 ユニットシステムに絡んで一点感心したのがパウダーガードです。パウダーガードとは、強風時にジャケットの裾から雪や冷気が巻き込むのを防ぐものです。ユニットシステムでインナージャケットを連結するとフォトレックジャケットとインナージャケットの間にこのパウダーガードが挟まって邪魔になり着心地を損ねるので、ジッパーで取り外せるようになっています。細やかな気配りが嬉しいです。ちなみにジャケットの裾にはドローコードも装備されているので絞って更に防風効果を高めることもできます。

 

脱着式パウダーガードとドローコード

 

 取り外しといえば、フードも外すことができます。雨が降る可能性のある季節にはやはりフードがあると助かります。そしてこのフードはフォックスファイヤーの写真撮影用ジャケットの特徴であるレインガーター(雨どい)付き。ファインダーを覗き込んだ際に雨水がカメラに流れ落ちないように左右へ逃がしてくれます。これは実に効果的で、とてもありがたい機能の一つです。また、雨の心配をする必要のない真冬は常にニット帽などを被っていますので、フードは取り外して襟を立てて着用しています。山中でいつ何時雨に見舞われても問題ないように固定フードとなっているビューマスタージャケットとはコンセプトが違いますね。

 

雨中の撮影で効果を発揮するフードのレインガーター

 

取り外しできるパウダーガードとフード、そしてユニットシステムのおかげで、季節や気温、天候に合わせて自在にカスタマイズできるのがこのジャケットの大きな魅力となっています。

 

 

 フォトレックの代名詞【大型レンズポケット】とその他のポケット

 

 さて、最大の特徴であるポケット類を解説します。大口径望遠ズームレンズも収納可能と謳われている大型レンズポケットは、最初期のフォトレックジャケット&ベストから採用されている定番装備。「70-200mmF2.8クラスの望遠レンズを収納可能」と説明されていますが、実際にはそれ以上の収納力があります。ではどれ位の収納力があるのか皆さん気になると思いますので試しにいろいろと入れてみました。

 

 まず撮影機材では、私の主力であるペンタックスK-1にDFA 150-450mm F4.5-5.6を組み合わせ、フードも順付け(撮影状態)でもギリギリ収納できました。フード逆付けであれば余裕で入ります。また、私の13インチノートパソコンDELL XPS13(305mm x 200mm)も収納できました。さすがにこれらは重いので長距離移動には向かず、一時的に入れるくらいですが、野外で置き場所が見付からないときには一応入れられると知っているだけで安心できます。iPadなどのタブレットであれば普段の持ち運びも現実的です。

 

 ちなみにこのノートパソコンのサイズはほぼA4用紙と同じですので、A4サイズまでの書類なら折らずに、または同サイズ程度の雑誌などを収納することもできます。横方向はA4サイズ位までですが、縦方向はもっと深さがあり、実測値約53cm (Mサイズの場合)です。縮長の短いトラベル三脚なら入ってしまいます。

 

フルサイズ一眼レフ+超望遠ズームを収納

 

大型レンズポケット収納目安

 

 一方で、小さなものをこの巨大ポケットに入れてしまうと手探りで奥底から取り出すのが大変なのですが、実は中に小さなポケットが隠されています。外したレンズキャップ、予備バッテリーやメモリーカードケース、リモートケーブルやリモートコントローラーなどを入れるのに最適です。

 

小物の収納に便利な大型レンズポケット内のポケット

 

 外側の四つのポケットは、いずれも底部にはマチがあるものの口部はマチをなくしてあります。出し入れが少しキツイですが、その分中身の不意の落下を防止してくれます。細かい点ですが、これら四つのポケットの底には水抜き穴が設けられています。この辺りはフィッシング用クロージングをルーツとするフォックスファイヤーらしい装備ですね。写真撮影においても雨でずぶ濡れになったものや雪まみれになったものをポケットに入れることがありますので水抜きがあるに越したことはありません。更に、腰部のポケットには横から手を入れるハンドウォーマーポケットもついています。

 

前面ポケットのマチと水抜き

 

 単体着用時には両胸内側にジッパー付きポケットがあり、財布やスマートフォンを入れるのに丁度良いです。ただしユニットシステムでインナージャケットを取り付けると隠れてしまうのですが、冬場は前述の大型レンズポケット内の隠れポケットで代用できます。ジャケットの前身頃を開けることなくアクセスできるので、寒い時にはこちらがお勧めです。

 

単体着用時に使用できるインナーポケット

 

 撮影現場で実感する驚くべき収納力

 

 以上のように、実際に使い始めてみるとそのカスタマイズ性の高さや機能性、細かい気配りに懐の深さを感じています。その日の天気をチェックして最適な状態にセットして出掛けられるのがとても便利で、一着で何着もの役割を果たしてくれる感じです。夏場のテント泊やハードなトレッキングを伴う撮影においては今でもビューマスタージャケットを選びますが、車移動がメインで定置観測的な撮影の場合はもっぱらフォトレックジャケットを使うようになりました。

 

  車で走行中に良い景色に出会って少しだけ車から離れる際などは、カメラバッグから使いそうなレンズやフィルターだけを取り出してポケットに突っ込んで撮影場所を探すことが多いです。野生動物撮影がメインのためカメラバッグには超望遠レンズなどが入っていて重いので、カメラバッグごと動き回るよりも最低限必要なものだけポケットに入れるほうが機動力が高いのです。カメラバッグを担いでいく場合でも、バッグを下ろして撮影を始めると良い構図を求めて少しずつ移動してしまい、気が付いたらカメラバッグからかなり離れてしまっていた…ということは皆さんも経験があるのではないでしょうか。

 

 「今この一枚」に必要かもしれないレンズやフィルター、アクセサリー類をポケットに突っ込んでおけば、何度もカメラバッグのあるところまで戻ったりバッグを移動したりせずに済むので撮影のリズムが乱れず集中できます。機材が少ない方なら「カメラバッグ要らず」にさえできるほどの収納力があります。

 

 

 冬季撮影お勧めコーディネート

 

 冬場にはスノーシューで雪原を歩き回りながら撮影するのですが、ビューマスタージャケットの重ね着では着膨れるしオーロラジャケットでは暑くなり過ぎるので、フォトレックジャケットがちょうど良い感じです。その日の気温に応じて単体で着用するも良し、ユニットシステムで最適なインナージャケットを連結するも良しです。

 

 この際には透湿防水素材使用で適度な中綿入りの「ディメンションDSパンツ」と組み合わせています。スノーシューで激しく動き回っても動きを妨げない立体裁断、脱着可能なサスペンダーと調整し易い腰部のベルクロでフィット感抜群。膝まで上がるサイドジッパーのおかげでスノーブーツの脱ぎ履きも快適に行えます。

 

 加えて手袋は「PSフィンガースルーグラブ」が一押しです。この手袋に関しては以前私のブログでレビューを書いていますので興味のある方はご一読下さい。もはやこの手袋無しに冬場の撮影は考えられないほど気に入っているのですが、その理由を詳しく解説しています。

 

冬季撮影時のコーディネート例

 

 

 「着るカメラバッグ」=街中でも旅行でも活躍する一生モノの一着

 

 約一年使用してきましたが、この「フォトレックジャケットM V」を一言で形容するならば、まさに「着るカメラバッグ」でしょう。それでいて登山用ジャケット的なビューマスタージャケットと比べ、デザインは街中で着ても十分お洒落。普段使いでもバッグ要らずの収納力は重宝します。合計12個にもおよぶポケットは旅行でも大活躍してくれます。フォックスファイヤーで長年採用されているユニットシステムは製品の新旧を問わず互換性があるので、長い目で見ても安心です。

 

 少々お値段が張りますので躊躇される方もおられるかもしれませんが、多用途に使える一生モノのこのジャケットをお考えであれば、少しでも早く手に入れて長く使うことをお勧めします。私自身が「もっと早く手に入れておけば良かった」と悔やんでいる一人ですから(苦笑)。

 

撮影から旅行、普段使いまで… 【一生モノ】のジャケット

 

 

 

 

写真家

花谷 タケシ | Takeshi Hanatani

 

1970年、京都市生まれ。独学で写真を学び、1998年よりカナダやアラスカにて野生動物の撮影を開始。2007年カナダへ移住、2010年よりユーコン準州在住。ユーコン川畔に住み、近くに世界遺産クルアーニー国立公園、冬空にはオーロラが舞う環境にて、極北の厳しい自然環境の中であるがままに生きる野生動物の姿を追い続けている。元Foxfire Storeスタッフ。
<WEBサイト> 熊魂 yukon-bearspirit